学校現場における「電話応対」は、単なる連絡手段にとどまらず、保護者との信頼関係を築くうえで極めて重要なコミュニケーションの一つです。
特に、教師や学校職員が日常的に行う電話のやり取りは、学校の第一印象を決定づける要素であり、対応一つで保護者の信頼を得ることもあれば、逆に不安や不信感を招いてしまうこともあります。
「忙しい中でも丁寧に話せているか」「相手の感情を受け止められているか」「クレームや不満にも誠実に対応できているか」——こうしたポイントを意識するだけで、電話応対の質は大きく変わります。
本記事では、現役の教職員や学校事務職員にも役立つよう、「電話応対マナーの基本」から「クレーム対応」「学校全体でのマナー向上策」までを体系的に解説していきます。
電話は顔が見えない分、声や言葉遣いにすべてが現れます。だからこそ、誠実な姿勢や丁寧な言葉選びが信頼へとつながるのです。
「保護者からの電話をどう受けるか」「学校から電話をかけるときに注意すべきことは何か」「職員全体でマナーを底上げするにはどうするべきか」——こうした実務に直結する内容を、具体的な事例とともに紹介していきます。
学校関係者として、どんな時でも安心感を持ってもらえる電話応対を実践したい方は、ぜひこの記事を最後までご覧ください。
1. 学校現場に求められる電話応対の基本マナー
・第一声が印象を左右する:学校代表としての挨拶を意識する
電話応対における第一声は、そのまま「学校全体の印象」につながる重要な要素です。
たとえば、保護者が電話をかけた際に、「はい、◯◯小学校です」と明るくはっきりした声で応対されると、それだけで安心感や信頼感が生まれます。
逆に、「はい……」と暗く不明瞭な声で応じた場合、学校への印象は一気に悪化してしまいます。
だからこそ、最初の一言には特に注意が必要です。
具体的には、以下のようなポイントを意識するとよいでしょう。
- 明るいトーンで、笑顔を意識して話す(電話越しでも声に表れます)
- 学校名をはっきり名乗る:「お電話ありがとうございます。◯◯小学校でございます」
- 最初の一呼吸を意識し、慌ただしく話し始めない
たとえば、ある教頭先生は「電話の第一声は、職員室全体の雰囲気を代表している」と職員に指導しています。
その学校では、年度初めに全教職員で「電話応対練習会」を実施し、第一声の言い方や声のトーンを徹底的に練習しているそうです。
その結果、保護者アンケートで「電話の対応がとても丁寧」との評価が上がり、学校への信頼度が高まったという事例もあります。
・敬語の使い方と柔らかい言葉選びのポイント
電話応対では、敬語の正しい使い方と、相手に安心感を与える言葉選びが非常に重要です。
たとえば、「〇〇になります」は本来誤用とされる表現ですが、学校現場では丁寧語として広く使われています。
ただし、「なります」よりも「でございます」「でございますね」など、より自然で正確な表現を意識したほうが好印象につながります。
また、「〜していただいてもよろしいでしょうか」「〜のご都合はいかがでしょうか」など、柔らかく丁寧な依頼表現を使うことが大切です。
たとえば、以下のような言い換えが効果的です。
- ×「それ、聞いてません」→○「そのようなご連絡は、私のほうではまだ確認できておりません」
- ×「もう終わりました」→○「すでに終了しております」
- ×「じゃあ、また電話します」→○「改めてこちらからお電話差し上げます」
このように、表現を少し変えるだけで、受け手の印象は大きく異なります。
つまり、丁寧な言葉選びは、信頼関係を築く第一歩なのです。
・保護者対応に必要な「聞く姿勢」と沈黙の活かし方
電話応対では「話す」こと以上に、「聞く」姿勢が問われます。
特に保護者の相談や不安、時にはクレームに近い連絡に対しては、相手の話を遮らず、しっかり聞き取る姿勢が必要です。
この際、あえて沈黙を挟むことで「きちんと受け止めている」ことが伝わる場合もあります。
たとえば、「……そうだったのですね」と少し間を置いて返すだけで、相手の感情は大きく和らぎます。
ある中学校では、電話応対の研修で「共感のうなずきと沈黙の活用」を教えており、実際に保護者から「話をしっかり聞いてくれる先生がいる」との評価を得ています。
このように、ただ話すだけでなく、聞く姿勢と沈黙の間の取り方を工夫することで、より誠実な対応が可能となるのです。
では次に、実際に保護者からの電話を受けた際にどのように応じるべきかについて、より具体的な対応策を見ていきましょう。
2. 保護者からの電話にどう応じるか:誠実な対応のしかた
・用件を正確に聞き取る「復唱」と「要約」の重要性
保護者からの電話対応では、まず「用件を正確に聞き取る」ことが最も基本でありながら重要なポイントです。
なぜなら、聞き間違いや思い込みによる対応ミスは、後々のトラブルや不信感の原因になるからです。
そのため、復唱と要約の技術を身につけることが必要不可欠です。
たとえば、保護者が「明日、娘が早退します」と言った場合、単に「わかりました」では不十分です。
「明日、◯年◯組の◯◯さんが早退されるというご連絡ですね。何時頃の予定でしょうか」と復唱し、必要な情報を要約して確認することで、認識のズレを防げます。
ある小学校では、職員に「復唱・要約テンプレート」を配布し、誰が対応しても聞き取りミスが起きないようにしています。
そのテンプレートには、「お名前」「学年・組」「要件」「日付」「引き継ぎ先」などの欄があり、電話中に自然と復唱ができる構成になっています。
このような工夫により、電話対応の精度と安心感が格段に向上しています。
・感情を受け止める:共感と説明のバランス
保護者からの電話には、時に強い感情が伴うことがあります。
その際、ただ事務的に対応するのではなく、まず相手の感情を受け止める姿勢が信頼構築の第一歩です。
たとえば、「うちの子が教室で泣いて帰ってきたんですけど、何があったんでしょうか」と問いかけられたとき、いきなり説明を始めるのではなく、まずは共感を示します。
「お子さまが泣いて帰ってこられたとのこと、ご心配だったかと思います」と一言添えるだけで、保護者の気持ちは少し和らぎます。
そのうえで、「担任に確認したうえで、改めてご連絡差し上げてもよろしいでしょうか」と、丁寧に説明を加えることで、誠実な印象を与えることができます。
この共感→説明というステップを踏むことで、感情的な会話が冷静な対話へと変わっていくのです。
ちなみに、ある中学校では、電話対応の最初の3文に「感情への共感」「事実の確認」「次の行動提案」の要素を入れるよう指導しています。
このシンプルなルールだけで、応対品質が飛躍的に改善したという報告もあります。
・対応できない場合の「引き継ぎ」ルールと伝え方
学校現場では、すべての電話にその場で対応できるとは限りません。
担当の教員が授業中だったり、不在だったりすることも多く、そうした場合には「引き継ぎ」の方法が非常に重要になります。
単に「今いません」では不親切な印象を与えますが、「申し訳ございません。現在、◯◯は授業中でございます。内容をお伺いし、戻り次第、こちらから折り返しご連絡いたします」と伝えることで、誠意が伝わります。
また、折り返しの時間の目安を伝えることで、相手の不安を軽減することができます。
ある公立高校では、職員全員が共通して使用する「引き継ぎシート」があり、そこには「保護者の名前」「連絡先」「要件」「折り返し希望時間」「緊急性の有無」などが明記されます。
このような仕組みがあることで、情報の取りこぼしがなくなり、保護者対応の信頼性が高まるのです。
このように、応対できない状況でも、保護者に安心感を与える言葉選びと、迅速な引き継ぎ対応が求められます。
では次に、保護者からの厳しい言葉やクレームに直面した際の対応について、具体的に考えていきましょう。
3. クレームや不満への応対術:信頼を損なわないために
・第一声で「火に油を注がない」対応を
クレーム電話の初期対応では、第一声のトーンと語彙の選び方が、その後の展開を大きく左右します。
たとえば、保護者が「昨日の授業の対応について不満があるんですが!」と強い口調で話し始めたとき、対応者が「そうですか…」と曖昧に返してしまうと、かえって相手の怒りに火を注いでしまうことも。
このような時は、まず「ご不快なお気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません」と、事実の是非を問わず“感情への配慮”を優先した一言が非常に効果的です。
その上で、「詳細をお伺いし、責任を持って確認いたします」と伝え、真摯に向き合う姿勢を見せることが大切です。
感情を受け止める姿勢が伝わることで、相手のトーンが落ち着き、冷静な対話に移行できる可能性が高まります。
・言い訳よりも「傾聴」と「対応の見通し」を
クレームへの対応で最も避けたいのは、「言い訳」や「自己弁護」に走ることです。
「それは担任が悪いんじゃなくて…」といった言葉は、保護者の不満を増幅させてしまいます。
まずは相手の話を最後まで遮らずに聞くこと。そして、「そのようなご意見をいただいたことを重く受け止めております」と丁寧に伝えることが基本姿勢です。
さらに、「この件については、◯◯(教員名・管理職)が本日中に確認し、ご連絡を差し上げます」と、対応の“見通し”を明示することで、相手の不安や不満を和らげることができます。
ある市立中学校では、保護者対応マニュアルに「謝罪→傾聴→要点整理→再発防止提案→見通し提示」という5ステップの対応フローが記載されており、新任教員もこの手順に沿って電話対応を行えるよう訓練されています。
こうしたルール化により、感情的なクレームも冷静に収束へ導くことが可能になります。
・学校としてのスタンスを明確に:対応の一貫性を保つ
クレーム対応で特に重要なのが、「学校としてのスタンス」をブレさせないことです。
電話に出た教職員ごとに対応が異なると、「言っていることが違う」と保護者の不信感につながります。
たとえば、保護者から「スマホの持ち込みルールについておかしいと思う」と電話があった場合、事務職員が「現場では黙認しているみたいですよ」と答えてしまえば、学校の方針に対する混乱を招きます。
このような場合は、「本校のルールとして、◯◯という対応をしております。ご意見として担当者にしっかりお伝えいたします」と統一された説明を行う必要があります。
そのためには、あらかじめ「よくある問い合わせとその回答」を職員間で共有し、対応方針を明確にしておくことが重要です。
実際、ある高校では「保護者対応統一マニュアル」を作成し、教職員全員が同じトーン・同じ内容で対応できるようにしています。
こうした工夫により、クレームへの一貫性ある対応が可能となり、結果として保護者との信頼関係も深まっていきます。
では次に、電話を受ける側だけでなく、学校から電話をかける際に注意すべきマナーについて見ていきましょう。
4. 学校から保護者へ電話をかける際の注意点
・かけるタイミングと時間帯への配慮
学校から保護者へ電話をかける際、最も気を配りたいのが「かける時間帯」です。
多くの保護者は働いているため、日中は電話に出られないこともあります。
また、夕食準備の時間帯や20時以降の電話は、プライベートを侵害していると受け取られることもあるため注意が必要です。
一般的には、以下の時間帯が望ましいとされています:
- 午前中:9:30~11:30
- 午後:13:30~16:30(学校が終わる前後の時間)
どうしても夕方以降に電話が必要な場合は、「この時間にお電話差し上げてもよろしいでしょうか」と事前に確認を取ることがベストです。
ある私立中学校では、電話連絡の時間帯ガイドラインを校内で明文化し、保護者からの「連絡がしつこい」「時間帯が非常識」といった苦情を未然に防いでいます。
・電話の目的と要件を明確に伝える
電話をかけた際には、最初に「誰が」「何のために」「何について」電話をしているのかを明確に伝えることが重要です。
たとえば、
「お世話になっております。◯◯中学校の教頭、◯◯でございます。本日は、◯年◯組の◯◯さんの件でご連絡差し上げました」
というように、はじめに情報を整理して伝えることで、保護者も安心して話を聞く体制が整います。
さらに、「本日の下校時に〜」「先ほどの授業中に〜」など、要件を時系列で整理して伝えることで、相手にとってわかりやすくなります。
とくにトラブルや注意喚起に関する連絡では、「今後の対応」や「お願いしたいこと」を明確に伝えることがポイントです。
・悪い報告こそ丁寧に:言いにくい内容の伝え方
生徒のトラブルや体調不良など、ネガティブな報告を保護者に伝える際は、慎重な言葉選びが求められます。
たとえば、「お子さんがトラブルを起こしました」という直接的な表現よりも、
「本日、◯◯さんが授業中に◯◯という行動をとられたため、担任よりご家庭に一度ご報告させていただいたほうが良いと判断し、お電話いたしました」
といった、経緯や配慮を含んだ言い回しが適切です。
また、「ご心配をおかけして申し訳ございません」といった言葉を添えることで、保護者の立場への配慮が伝わります。
ある公立小学校では、「ネガティブ連絡テンプレート」を用意しており、職員が必要以上に萎縮せず、かつ丁寧に報告できるよう工夫されています。
このように、悪い報告ほど“誠実さ”と“安心感”を重視した対応が求められるのです。
最後に、教職員が電話応対で気をつけたい共通マナーと、学校全体で質を高めるための取り組みについてまとめましょう。
5. 教職員全体で共有したい電話応対の心得
・「学校の顔」としての自覚を持つ
電話対応は、対面よりも相手の感情や反応が見えにくいぶん、一つひとつの言葉に気を配る必要があります。
特に電話に出た教職員の声や対応が、そのまま「学校の印象」になることを常に意識しましょう。
たとえば、保護者からの第一声に対し、間の抜けた声で「はい?」と応じると、「この学校、大丈夫かな」と不信感を抱かれる恐れがあります。
一方で、明るく落ち着いた声で「お電話ありがとうございます。◯◯中学校、職員室でございます」と名乗るだけで、相手に安心感を与えられます。
ある自治体では、「電話応対は“学校の玄関”と同じ」と定義づけ、電話に出る全職員に年1回の電話応対研修を義務付けています。
この取り組みにより、電話を受けた瞬間から“信頼される学校”としての第一歩が踏み出せるようになりました。
・クレーム対応は「個人対応」ではなく「チーム対応」
電話のクレーム対応でありがちなのが、若手教員が一人で抱え込み、結果として適切な対応ができず、状況が悪化してしまうケースです。
そのため、学校では「電話対応をチームで支える」仕組みが必要です。
具体的には、
- 対応中の教職員が「対応記録」を残す
- 管理職がその都度確認し、判断や再連絡を行う
- 対応履歴を「共有フォルダ」や「ノート」で蓄積する
こうした体制を整えることで、仮に保護者が別の職員に「前回こう言われた」と話してきたとしても、一貫した対応が可能になります。
ある高校では、クレーム対応を“教職員のスキル”ではなく“学校の組織力”として捉え、「記録・共有・再確認」の3ステップを徹底しています。
その結果、保護者からの信頼も高まり、「対応が丁寧な学校」としての評価が定着しています。
・定期的なロールプレイと研修でスキル向上を図る
電話応対のスキルは、マニュアルだけでは身につきません。
実際の対応を想定した「ロールプレイ形式の研修」が、効果的なスキルアップの手段です。
たとえば、以下のようなロールプレイが推奨されます:
- 事務職員が保護者役になり、実際にありそうなシナリオを演じる
- 若手教員が応対し、ロールプレイ後に先輩教員や管理職がフィードバックを行う
- 対応の音声を録音し、自分で聞き返して改善点を見つける
これにより、実際の場面でも落ち着いて応対できる力が養われます。
また、クレーム対応やトラブル時の練習を行っておくことで、「初動の失敗」を避けることができるのです。
定期的な研修と、職員全体で電話応対のレベルを高めていく姿勢が、結果的に学校全体の信頼性を支える大きな力になります。
では最後に、ここまでのポイントを整理してまとめましょう。
まとめ:電話対応を“信頼構築”の場に変えるために
教職員にとっての電話応対は、単なる「情報伝達の手段」ではなく、保護者や地域と信頼関係を築くための大切な接点です。
一人ひとりの対応が、学校全体の印象を左右し、ひいては生徒の学習環境や保護者の満足度にもつながっていきます。
本記事で紹介したように、以下のポイントを意識することで、電話応対の質は大きく向上します:
- 第一声で安心感を与える
- クレームには共感・傾聴・対応の見通しを示す
- 保護者への連絡は時間帯と要件の伝え方に配慮
- 対応を個人で抱え込まず、記録と共有を徹底
- 実践型研修でスキルを組織的に育てる
電話応対は「話し方」以上に「姿勢」が伝わるコミュニケーションです。
どんなときでも、“相手を思いやる気持ち”と“学校としての誠実な姿勢”を持って、電話の一言ひとことに責任を持ちましょう。
電話越しでも伝わる信頼感が、学校と保護者、そして地域とのよりよい関係を育んでいくはずです。
ぜひ、本マニュアルを校内で共有し、教職員全体の応対力向上にお役立てください。
※本記事は、教育現場の事例やヒアリング調査をもとに構成されています。学校ごとの対応方針や地域性を尊重しながら、柔軟にカスタマイズしてご活用ください。