医療事務や看護師として働くうえで、電話対応は避けて通れない重要な業務のひとつです。
患者との最初の接点になることも多く、その対応次第で医療機関全体の印象が左右されるといっても過言ではありません。
とくに近年は、少しの対応ミスがクレームに発展するケースもあり、電話応対の質は患者満足度と信頼感の向上に直結しています。
この記事では、医療現場で働く医療事務や看護師に向けて、信頼を築くための電話マナーやクレームを防ぐための実践的なコツを具体例とともに紹介します。
電話を受けるとき・かけるときの基本マナー、クレーム対応の心得、さらにはスキルアップにつながる成長法まで、実務にすぐ役立つ情報を網羅しました。
現場で求められる対応力を高めたい方や、新人教育の資料を探している方にとっても必読の内容です。
それではまず、「医療現場ならではの電話応対とは」について解説していきましょう。
1. 医療現場ならではの電話応対とは
患者との信頼関係を築く第一歩
医療の現場における電話対応は、単なる業務連絡ではなく、患者やその家族との信頼関係を築くための「最初の窓口」と言えます。
なぜなら、医療機関に対して初めて連絡を取る手段として、電話を選ぶ人は非常に多く、その第一声や言葉選びによって「この病院は安心できる」と感じるか、「冷たくて不親切」と不安を覚えるかが決まるからです。
たとえば、ある総合病院では、「お電話ありがとうございます。〇〇病院、医療事務の△△です」と名乗ったうえで、「どうなさいましたか?ご不安な点があればお聞かせください」と一言添えることを徹底したところ、患者からの信頼が厚くなり、アンケート調査でも「電話の時点で安心できた」との声が多く集まりました。
また、高齢者や耳の遠い患者の場合、言葉を正確に聞き取ることが難しく、不安がさらに強まることがあります。
このような場合には、普段よりゆっくりと、はっきりした発音で対応する必要があります。
たとえば、「はい、〇〇クリニックでございます」と名乗ったあと、「お名前をゆっくり教えていただけますか?」と促すだけでも、相手の緊張感は和らぎます。
このような配慮を積み重ねることが、電話越しでも「信頼できる人が応対してくれている」という安心感を生み出すのです。
さらに、患者の不安を先読みした応対も有効です。
初診の予約を希望される方に対して、「当日は保険証をご持参ください」「診察前に簡単な問診票をご記入いただきます」とあらかじめ伝えておくことで、来院時の戸惑いや不安を減らすことができます。
あるクリニックでは、初診予約の電話を受けた際に「はじめてのご来院ですね。スタッフ一同、お待ちしておりますのでご安心ください」と一言添えるマニュアルを導入した結果、初診キャンセル率が大きく改善されました。
このように、ほんの一言の心遣いが、相手の心に安心感を与え、結果的に医療機関全体への信頼感へとつながります。
電話という顔の見えないコミュニケーション手段だからこそ、言葉と声のトーンに誠実さと温かさを込めることが重要なのです。
なお、信頼を損なわないためには、質問には曖昧に答えず、わからないことは「確認いたしますので、少々お待ちください」と一旦保留することも大切です。
あいまいな返答や推測に基づく対応は、かえって患者の不信感を招く原因となります。
それでは次に、専門用語や略語を扱う際の注意点について見ていきましょう。
専門用語や略語の使い方に注意
医療現場では、日常的に専門用語や略語が多く使われていますが、患者やその家族に対する電話対応の場面では、その扱いに細心の注意が必要です。
というのは、医療関係者にとってはごく当たり前の言葉でも、一般の人にとっては意味が分からず、不安を煽る原因になることがあるからです。
たとえば、「本日は血液検査の結果、CRPの値が高めでした」と伝えると、医療従事者なら「炎症反応の指標だ」と理解できますが、一般の方には意味不明で、かえって「何か重い病気なのでは?」と不安にさせる恐れがあります。
このような場合、「炎症のサインを示す検査項目が少し高かったので、今後の経過をみていく必要があります」と、噛み砕いて説明することが大切です。
また、略語にも注意が必要です。
たとえば「MRI」「CT」「PET」などの検査名も、患者からすれば違いが分からず、「どれを受けるんですか?」「どんな検査なんですか?」という質問につながりやすい用語です。
このとき、「CTは体の断面を撮るレントゲンのような検査です」「MRIは磁気で体の中を詳しく調べる検査です」と具体的に補足すると、相手の不安を軽減できます。
実際にあった例では、ある患者が「心電図に異常がありました」とだけ伝えられ、不安になって病院へ電話したというケースがあります。
対応した看護師が「詳しい数値を見てみますね。少し変動はありますが、日常生活に支障があるものではないようです。医師の判断で、経過観察となりました」と具体的に説明したことで、患者は安心し、後のトラブルには発展しませんでした。
このように、専門用語を使うときは、相手の理解度に合わせて言葉を選び、必要に応じて説明を添えることが重要です。
とくに高齢者や外国人患者の場合、専門用語だけでなく、ややこしい言い回しも避けたほうが無難です。
言い換えると、誰が聞いても分かる言葉で伝える「やさしい医療用語」を意識する姿勢が求められます。
ちなみに、医療従事者同士のやりとりで使う略語や隠語を、電話口でうっかり患者に向けて使ってしまうと、混乱を招くばかりか、専門性への過信として誤解を招く可能性もあります。
特に注意が必要なのは、「キャンセル」と「中止」の使い分けや、「経過観察」と「問題なし」の区別など、ニュアンスが微妙な表現です。
言葉選びひとつで、患者の安心にも、不安にもつながることを常に念頭に置くべきです。
では次に、電話対応で感情的にならず冷静さを保つ理由について解説します。
感情的にならず、冷静さを保つ理由
電話応対において、医療従事者が常に心がけるべきことのひとつが、「感情的にならず、冷静に対応する」姿勢です。
というのは、電話越しでは表情やしぐさが伝わらないため、声のトーンや言葉遣いひとつで、相手の印象が大きく変わってしまうからです。
とくに相手が不安や怒り、不満といった感情を抱えている場合、こちらの感情が声に出てしまうと、火に油を注ぐ結果になりかねません。
たとえば、あるクリニックでは、診察の順番が大幅に遅れたことに不満を持つ患者から、「もう何分待ってると思ってるんですか」と怒りの電話がかかってきたことがありました。
対応したスタッフが「申し訳ありませんが、診察が混み合っております」とだけ伝えたところ、患者はさらに怒りをあらわにしました。
しかし、別のスタッフが電話を代わり、「お待たせしてしまい申し訳ございません。○○様のご不安やご不満はごもっともです。現在、前の方の診察が長引いており、○○分ほどでご案内できる予定です」と冷静に状況説明を加えると、患者は落ち着きを取り戻しました。
このように、相手が感情的になっているときほど、こちらは感情を表に出さず、落ち着いた態度を保つことが重要です。
逆に、語気を強めたり、無意識にため息をついたりすると、相手に不快感を与えてしまい、問題が大きくなってしまう可能性があります。
また、医療現場では電話対応中に他の患者対応や緊急対応が発生することもあります。
こうした場面でも、焦りや苛立ちが声に出ないように注意することが求められます。
たとえば、電話を保留にする際に「少々お待ちいただけますか」と丁寧に声をかけたうえで、「保留させていただきます」と一言添えるだけでも、相手は「ないがしろにされていない」と感じるものです。
さらに重要なのは、自分自身の感情をうまくコントロールするスキルです。
イライラしたり、不安になったりしたときに深呼吸をする、心の中で「落ち着こう」と声をかけるなど、ちょっとした工夫で平常心を保つことができます。
ちなみに、ある訪問看護ステーションでは、感情のコントロールを目的とした「電話対応前の30秒リセットルール」を導入しています。
内容は、電話を取る前に必ず30秒だけ深呼吸をして頭をリセットするというものですが、これによってスタッフの応対に安定感が出て、患者や家族とのトラブルが大幅に減ったとのことです。
ゆえに、電話対応では感情を抑える力が信頼を生むという認識をもち、どんな状況でも冷静に、事実を丁寧に伝える姿勢が必要です。
それでは次に、電話を受けるときに押さえておきたいマナーについて見ていきましょう。
2. 電話を受けるときのマナー
3コール以内の対応と第一声の重要性
医療現場において、電話を受けるときの第一印象は、患者や家族の安心感を大きく左右します。
特に重要なのが、「3コール以内に電話に出ること」、そして「明るくはっきりとした第一声で対応すること」です。
まず、なぜ“3コール以内”が大切なのか。
電話をかける側は、体調の不安、家族の病気、予約の確認など、何かしらの“気がかり”を抱えて連絡してきています。
そのため、呼び出し音が長く続くだけで、「本当に出てくれるのか?」「ちゃんと対応してくれるのか?」という不安が募ってしまいます。
あるクリニックでは、電話に出るまで平均6コール以上かかっていたことが問題視され、対応体制を見直したところ、患者満足度が改善したという事例もあります。
「少なくとも3コール以内」という基準を意識するだけで、応対への信頼感が高まるのです。
次に、電話を取ったあとの「第一声」の重要性です。
声のトーンやスピード、話し方ひとつで、「親切そうな人が出た」と安心してもらえるか、「ぶっきらぼうで冷たい印象だ」と思われるかが分かれます。
理想的なのは、明るく、笑顔を意識した声で、次のように名乗ることです。
たとえば、「お電話ありがとうございます。○○クリニック、受付の△△でございます」と、病院名と担当者名をしっかり伝えることで、相手は安心して要件を話しやすくなります。
一方、「はい、○○です」とだけ返すのは避けましょう。
特に医療機関では、病院名や担当者の名乗りがないと、患者は「本当に病院につながったのか?」と不安になります。
電話が混み合っていたとしても、慌ただしさや疲れが声に出ないように意識することが大切です。
また、名乗りのあとは、「どうされましたか?」「本日はどういったご用件でしょうか?」と、相手が話しやすい雰囲気をつくる一言を添えると効果的です。
たとえば、「お電話ありがとうございます。○○病院、医療事務の△△です。本日はどうなさいましたか?」と声をかければ、自然な流れで会話を始めることができます。
さらに、マスク越しに話すと声がこもって聞こえることもあるため、発音を意識して、相手が聞き取りやすい速度・音量で話すことも心がけましょう。
なお、電話対応が重なって取れない状況が予想される時間帯には、院内で分担やローテーション体制を組むなど、事前の工夫も必要です。
結局のところ、「迅速に出る」「明るく名乗る」「話しやすい雰囲気をつくる」——この3点を押さえることで、相手に与える印象は格段に良くなります。
それでは次に、電話の内容を正確に聞き取るためのポイントについて解説していきます。
要件を正確に聞き取るためのポイント
医療機関にかかってくる電話の多くは、予約・キャンセル、検査結果の確認、症状の相談など、重要性の高い内容です。
そのため、相手の話を「正確に聞き取り、的確に対応する」ことが、電話応対における大前提となります。
まず、聞き取りの基本は「相手の話を最後まで遮らずに聞く」こと。
話の途中で口を挟んだり、先回りして答えようとすると、大切な情報を聞き漏らしたり、相手に「話を聞いてもらえない」という印象を与えてしまいます。
とくに高齢の患者や不安を抱えている人ほど、ゆっくりと自分の言葉で話そうとします。
急かさず、うなずきながら「はい」「かしこまりました」と相づちを入れることで、相手も安心して話し続けてくれます。
次に大切なのが、「復唱と確認」です。
たとえば予約変更の電話で、「○月○日午前10時から、内科の予約ですね」と繰り返して確認することで、聞き間違いを防ぐことができます。
また、相手の名前や電話番号などの重要事項は、必ず一度聞いたあとに、「○○様でいらっしゃいますね。お電話番号は、000-1234-5678でお間違いないでしょうか?」と確認をとる習慣をつけましょう。
実際、ある病院では予約時間の聞き間違いが重なり、患者が診療時間外に来院してしまったことがありました。
このようなミスを防ぐためにも、要件を繰り返して確認する「ダブルチェック」は非常に有効です。
また、相手の話を記憶に頼るのではなく、メモをとりながら聞くことも基本です。
特に複数の要件が含まれている場合や、緊急性が高い内容は、後で振り返れるような記録が必要です。
メモの際は、5W1H(いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのように)を意識すると、情報の抜け漏れを防げます。
さらに、声が聞き取りづらい、話が要領を得ない場合には、失礼のないように「恐れ入りますが、もう一度お願いできますか?」「確認のため、繰り返させていただきます」と丁寧に聞き直す姿勢も大切です。
聞き返すことをためらって曖昧なまま対応してしまうと、後でトラブルになるリスクが高くなります。
一方で、相手の話にただ受け身で対応するだけでなく、必要に応じて「こういうことでお間違いないでしょうか?」「それは○○ということでよろしいですか?」と、積極的に要点をまとめる力も求められます。
つまり、正確な聞き取りとは「聞くだけ」ではなく、「整理して、確認して、共有する」までを含めた一連のプロセスなのです。
では続いて、患者や家族からの要望・問い合わせを正しく引き継ぐためのポイントについて見ていきましょう。
引き継ぎやメモの取り方
電話対応において、聞き取った内容を他のスタッフへ正確に引き継ぐことは、医療現場の安全と信頼を守るうえで欠かせない業務のひとつです。
引き継ぎの不備によって、診療内容や処方、訪問スケジュールなどに誤りが生じれば、患者の健康や生活に重大な影響を及ぼすこともあります。
そのため、まず大前提として必要なのが、「聞いた内容は必ずメモを取る」という意識です。
人は数分前の会話であっても、細かい日時や数字、名前を正確に記憶しておくのは困難です。
とくに電話の後に別の業務が入れば、記憶はどんどん薄れてしまいます。
そのため、電話を受けながらペンを持ち、氏名・日時・用件・必要な対応・緊急度などをその場で書きとめておくことが大切です。
たとえば、ある訪問看護ステーションでは、全スタッフに共通の「電話応対メモシート」を用意しています。
このシートには、「通話日時」「連絡者名」「対象患者名」「連絡内容」「対応依頼先」「折り返しの要否」などの項目があらかじめ記載されており、記入漏れを防ぐ仕組みになっています。
こうしたツールを活用することで、情報伝達の精度が格段に高まります。
また、引き継ぐ際には、「誰が・誰に・何を・いつまでに」伝える必要があるのかを明確にすることが重要です。
たとえば、「○○さんのご家族から、○月○日までに薬の残数確認の連絡がほしいとのことです」といったように、具体的に伝えることで、相手も対応しやすくなります。
口頭での引き継ぎに加えて、電子カルテや連絡ノート、チャットツールなど、職場で決められた情報共有ツールに記録を残すことも忘れてはいけません。
とくにシフト交代のある職場では、「聞いた本人しか知らない」状態をつくらないことが重要です。
なお、電話対応中に判断が難しい要望があった場合は、自分の判断で曖昧に答えず、「確認のうえ、担当者から折り返しご連絡いたします」と丁寧に伝えるのが適切です。
そしてその後、必ずその旨を担当者に引き継ぎ、相手に対応漏れがないようにフォローしましょう。
最後に、「メモをそのまま渡す」のではなく、「電話でこういう内容がありました」と自分の言葉で簡潔に要点を伝えることも、正確な引き継ぎには欠かせません。
伝言ゲームのように、メモの内容だけが伝わっても、細かなニュアンスや背景が抜けてしまうことがあるからです。
つまり、電話の内容を「記録する」「共有する」「行動につなげる」までが、電話対応の大切な一連の流れです。
それでは次に、電話をかけるときに必要なマナーについて解説していきましょう。
3. 電話をかけるときのマナー
かける前の準備と心構え
電話応対は受ける側だけでなく、「かける側」のマナーも非常に重要です。
特に医療や介護の現場では、患者や家族、他の医療機関、行政機関など、さまざまな相手と電話でやり取りする機会があります。
その際、準備不足のまま電話をかけてしまうと、相手に迷惑をかけたり、必要な情報を得られなかったりするリスクがあります。
まず、電話をかける前に確認しておくべき基本のポイントは以下の5つです:
- 相手の氏名・部署・連絡先は正確か
- 電話をかける目的・要点は明確か
- 必要な資料・メモは手元に揃っているか
- 伝える内容に漏れや曖昧さがないか
- 相手が電話に出やすい時間帯か
たとえば、病院から患者の家族に検査結果の確認で電話をかける際、患者氏名や検査日時、伝えるべき結果内容をしっかり把握しておく必要があります。
これらを準備せずに電話をかけると、「少々お待ちください…」と何度も保留にしたり、「確認してまたかけ直します」となるなど、相手に不信感を与える可能性があります。
また、電話の目的や要件はできるだけ簡潔にまとめておきましょう。
頭の中で「いつ・なぜ・どうして連絡するのか」「どのような返答を求めているのか」を整理しておくと、実際の会話もスムーズになります。
とくに相手が医療機関や介護施設で多忙な場合、「用件がわかりづらい」「話が長い」と感じさせてしまうと、信頼を損なうことにもなりかねません。
加えて、資料や記録が必要になる可能性がある場合は、手元に用意したうえで電話をかけるのがマナーです。
たとえば、医師との相談の場面で検査結果の数値を聞かれた場合、その場で確認できないと二度手間になります。
さらに、「今この時間にかけて問題ないか」という配慮も大切です。
休診日やお昼休み、夕方の混雑時間帯など、相手の状況を考慮するだけで、電話対応の印象が大きく変わります。
もし迷う場合は、「今お時間よろしいでしょうか?」と一言添えるだけで、相手への配慮が伝わります。
このように、「かける前の5分の準備」が、相手の信頼を得る電話対応につながります。
それでは次に、実際に電話をかけた際の「話し方」や「伝え方」のコツについて解説していきます。
名乗り方と話し方のポイント
電話をかけるときの第一印象は、「名乗り方」で決まると言っても過言ではありません。
相手は声だけでこちらの情報を判断するため、はっきりと聞き取りやすく、丁寧に名乗ることが信頼関係の第一歩になります。
電話をかけた際は、まずコールがつながったあとに、次のような流れで名乗るのが基本です。
「お忙しいところ失礼いたします。〇〇病院の□□(所属・名前)と申します。」
「○○様(または○○クリニック)でしょうか?」
このように、まずこちらの所属と名前を名乗り、そのあとで相手の確認を取るようにしましょう。
この一言を省略してしまうと、相手は「誰からの電話なのか」がわからず、不安や不快感を持つ可能性があります。
名乗るときは、語尾をはっきりと、少しゆっくりめに話すことがコツです。
早口になると、聞き取りづらくなったり、慌てた印象を与えてしまいます。
続いて、用件を伝えるときのポイントです。
話し方の基本は、「結論から先に述べる」ことです。
たとえば、「本日は、□□様の訪問リハビリについてご相談がありまして、お電話いたしました」といったように、まず要件を明確に伝えましょう。
そのあとに、具体的な経緯や背景を説明すると、相手も話を整理しやすくなります。
また、専門用語や略語はなるべく使わず、相手に合わせた言葉づかいを意識することも大切です。
特に患者やそのご家族に対しては、医療従事者が当たり前に使う言葉でも伝わらないことがあります。
たとえば、「BPが高めなので…」ではなく、「血圧が少し高めで…」のように、わかりやすく言い換える工夫が求められます。
声のトーンや話すスピードにも注意が必要です。
緊張すると無意識に声が小さくなったり、早口になりがちですが、落ち着いた口調で話すことが信頼感につながります。
電話は対面と違って表情が見えない分、声の印象がすべてです。
明るく、丁寧で、誠実な話し方を心がけましょう。
最後に、「聞き返し」や「確認」を忘れずに行うことも、誤解を防ぐうえで重要です。
「○○ということでよろしいでしょうか?」「復唱させていただきます」といった言葉を入れるだけで、相手にも安心感を与えられます。
次は、相手が不在だった場合や、留守電・伝言を残すときの対応について解説していきましょう。
不在時や折り返しをお願いする場合の対応
医療機関から患者へ電話をかけた際に、相手が不在であったり、通話に出られないことは珍しくありません。そのような場合でも、丁寧で的確な対応をすることが大切です。
まず、電話に出たのが本人でない場合は、「○○様はいらっしゃいますでしょうか?」と丁寧に確認します。家族などが対応した際には、「またお時間を改めてお電話させていただきます」と伝えるか、「ご都合の良いお時間を伺ってもよろしいでしょうか」と尋ね、相手の意向を尊重するようにします。
また、留守番電話に切り替わった場合には、個人情報の観点から、具体的な診療内容や検査結果などには一切触れず、「○○クリニックの○○でございます。○○様にご連絡を差し上げました。恐れ入りますが、折り返しお電話をいただけますでしょうか」といった簡潔なメッセージにとどめます。
実際、個人情報保護の観点から留守電には内容を残さない方針の医療機関も多く、「メッセージは入れずに数時間後に再度電話する」などの運用を徹底しています。これにより、万が一他人がメッセージを再生しても情報が漏れないよう配慮されています。
折り返しを依頼する場合には、「本日は○○時までお電話がつながります」や「○○までご連絡いただけると助かります」と、明確な時間帯や連絡先を添えると親切です。
また、折り返しの電話があった際に備えて、どの職員が対応すべきか、何の用件だったかを職場内で共有しておくことで、スムーズな対応が可能になります。対応者が不在で状況が伝わっていない場合、患者に不信感を与えてしまう可能性があるためです。
このように、相手が不在のときこそ、慎重で丁寧な配慮が求められます。確実に連絡が行き届くよう、情報共有とフォロー体制を整えておくことが信頼構築につながるのです。
では次に、電話応対におけるよくあるトラブル事例と、その予防策について見ていきましょう。
4. クレームを防ぐ対応の心得
クレームの多いパターンとその予防策
医療機関における電話対応では、ちょっとした対応の違いがクレームに発展することがあります。特に、説明不足や言葉遣いの誤解、対応の遅れといった点が、患者や家族の不満を引き起こす要因になりやすいのです。
たとえば、「診療時間について問い合わせがあった際に、“午後はやっていません”とだけ答えたところ、『冷たく感じた』『突き放された印象を受けた』と苦情が寄せられた」という事例があります。
このような場合、言い方を変えて「午後は休診ですが、明日の午前であればご案内可能です」などと、代替案や補足を添えるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。
また、検査結果の問い合わせに対して「まだ出ていません」とだけ答えると、「本当に確認したのか」「適当にあしらわれた」と感じられることもあります。そこで、「担当医が本日確認中ですが、結果が分かり次第ご連絡いたします」といった具体的かつ安心感を与える返答が重要です。
クレームが多いパターンとしては、以下のような例が挙げられます:
- 曖昧な表現で誤解を招く(例:「そのうち折り返します」→具体的でないため不安を与える)
- 相手の話を途中で遮る(例:患者が症状を説明中に保留にするなど)
- 感情的な返答をしてしまう(例:イライラを声に出してしまう)
これらは、対応マニュアルの整備やロールプレイによる実践訓練を通じて、予防することができます。
さらに、電話応対の記録をメモや電子カルテに残す習慣を持つことで、「言った」「聞いていない」といった行き違いを防ぐことにもつながります。
すなわち、日々の電話対応の中でクレームの芽を摘むには、“相手の立場で考える”視点と“言葉選びの丁寧さ”が鍵となるのです。
では次に、実際に不満を抱いた相手と向き合うときに役立つ「聞き取り方と対応例」について見ていきましょう。
不満の芽を摘む聞き取り方と対応例
電話応対においてクレームを未然に防ぐためには、相手の不満や不安の“芽”を早い段階で察知し、適切に対処することが極めて重要です。そのためには、単に聞くのではなく、“傾聴”の姿勢を持って話を引き出すスキルが求められます。
たとえば、患者の家族から「先週の検査結果について、まだ何の連絡もないのですが…」という電話があったとします。この時、「すみません、確認します」の一言で終わらせてしまうと、相手は「軽く扱われた」と感じてしまいかねません。
このような場面では、まず「ご心配をおかけして申し訳ありません。どのようなご説明があったか、もう一度詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか」といった形で、相手の話を丁寧に聞き取る姿勢を示すことが肝心です。
また、不満を口に出しにくい患者や高齢者の場合は、会話のトーンや間の取り方から「何か伝えたいことがありそうだ」と感じた時点で、「何か気になることがございましたか?」と一言添えることで、未然に不安や不満を汲み取ることができます。
聞き取りの際に重要なのは、次のような“共感を示す言葉”を使うことです:
- 「そのお気持ち、よくわかります」
- 「ご不安なお気持ちはもっともです」
- 「そう感じられるのも当然だと思います」
これらの言葉を適切に交えることで、相手は「自分のことを理解してくれている」と感じ、感情が和らぎます。
あるクリニックでは、「不満の声が上がったときには、まず3分間は相手の話を遮らずに聞き、共感を示すことを徹底」したところ、電話によるクレームの件数が月平均で5割以上減少したという報告があります。
さらに、聞き取った内容を復唱することで誤解を防ぎ、「◯◯ということでお間違いないでしょうか?」と確認を加えることで、相手の安心感も高まります。
このように、不満を抱える相手に対しては、いかに“心を傾けて聴くか”が最も大きな鍵となるのです。
次に、クレーム対応で必ず求められる「謝罪と共感のバランス」について考えてみましょう。
謝罪と共感のバランスを取る話し方
医療現場での電話応対において、クレームが発生した際の「謝罪」と「共感」のバランスは非常に重要です。一方的に謝るだけでは誠意が伝わらず、かといって共感ばかりで責任を曖昧にしてしまうと、相手の不信感を煽る結果になります。
たとえば、「診察の順番が後回しになった」という患者からのクレーム電話があった場合、「申し訳ありません、確認いたします」と謝るだけでは、単なるマニュアル対応のように聞こえてしまいます。
このようなときには、まず共感の言葉を先に述べ、「お待たせしてしまい、不安に感じられたことと思います」と気持ちに寄り添ったうえで、「そのうえで、状況をすぐに確認し、対応させていただきます」と行動につなげる構成が効果的です。
謝罪はあくまで「事実に対して誠意を示す」ものであり、過度に頭を下げるだけではなく、「どのようにリカバーするか」「今後どう改善するか」を明確にすることで、相手は納得しやすくなります。
以下に、謝罪と共感を両立させた効果的な話し方の例を紹介します:
- 「ご不便をおかけして申し訳ございません。不快な思いをされたことと思います。今後は同様のことが起こらぬよう、確認を徹底してまいります。」
- 「お話をうかがい、たいへんご不安なお気持ちであることが伝わってきました。こちらの説明が不足していた点、深くお詫び申し上げます。」
- 「ご指摘ありがとうございます。改善のきっかけをいただけたことに感謝しております。すぐに関連部署と情報を共有いたします。」
あるクリニックでは、電話応対の研修で「謝罪→共感→対応の提示→再確認」という4段階フレーズを導入したところ、1年で患者からの感謝の声が増加し、口コミ評価にも良い変化が表れたという事例があります。
また、謝罪のタイミングや言葉選びによって、相手の心象が大きく変わることもあります。特に電話では顔が見えないため、声のトーンや言葉遣いが相手の感情に与える影響は非常に大きいのです。
つまり、誠意と共感を込めた言葉を、相手のペースに合わせて届けることが、クレーム対応における信頼回復の鍵となります。
では次に、電話対応を通じて医療従事者としてどのように成長していくかについて考えていきましょう。
5. 医療従事者として成長するために
電話対応のロールプレイでスキルを磨く
医療現場での電話対応スキルは、一朝一夕で身につくものではありません。したがって、実践的な訓練を通して少しずつ磨いていく必要があります。特に有効なのが、ロールプレイ形式の研修です。
ロールプレイでは、実際の電話対応の場面を想定してスタッフ同士が「患者役」と「医療従事者役」に分かれ、やりとりを繰り返します。これにより、普段意識しづらい自分の言葉遣いや口調、対応の流れを客観的に見直すことができます。
たとえば、あるクリニックでは月に1回のロールプレイ研修を導入し、受付スタッフが様々なクレーム対応や高齢患者への対応を練習しています。参加者からは「現場で焦ることが少なくなった」「他のスタッフの言い回しを参考にできて勉強になる」といった声が多く聞かれ、結果として実際の電話応対の質が大きく向上しました。
また、ロールプレイを記録し、あとで動画で振り返ることで、話し方や表情、タイミングのズレなども確認できるため、改善点を明確に把握できます。
さらに、ロールプレイの題材を現場で実際に起きた事例に基づいて作成することで、現実的かつ実践的な対応力が身につきやすくなります。
このように、ロールプレイは電話応対スキルの向上に直結するだけでなく、スタッフ同士の情報共有や意識の統一にも役立つ重要な手段といえるでしょう。
では次に、日常業務の中で得られるフィードバックをどのように活かしていくかについて見ていきます。
上司や先輩からのフィードバックを活かす
電話対応のスキルは、自分ひとりで磨こうとしても限界があります。だからこそ、上司や先輩、あるいは第三者からのフィードバックが非常に重要です。
実際の電話対応を終えたあと、「この返答は少し冷たく感じたかもしれない」「もう少し間を置いて返答した方が丁寧だった」などの具体的なアドバイスを受けることで、自分では気づきにくい改善点が明らかになります。
たとえば、ある中規模病院では、電話の内容を日誌に簡単に記録し、週に1回、上司が内容を読み返して気づいた点をフィードバックするという仕組みを導入しました。これにより、スタッフの応対が安定し、患者からの問い合わせ対応に対する満足度が向上したとの報告があります。
また、フィードバックは単に間違いを指摘するだけでなく、「この対応はとても丁寧で良かった」といった肯定的なコメントも交えることで、モチベーションの維持につながります。
さらに、スタッフ間でお互いの応対を聞き合う「相互レビュー」を導入する施設も増えており、多角的な視点から学ぶことが可能です。
このように、日常の中で得られるフィードバックを素直に受け止め、次の対応に活かす姿勢が、医療従事者としての成長に直結していきます。
では最後に、電話対応を自身で振り返る習慣を持つことの意義について考えてみましょう。
日々の振り返りで改善点を見つける
電話応対のスキル向上には、日々の業務を振り返る「自己レビュー」の習慣も欠かせません。業務が終わったあと、ほんの数分でもその日の応対を思い出し、「あの返答は適切だったか」「もう少し相手に寄り添えたのではないか」と自問することで、少しずつ自分のスタイルが確立されていきます。
たとえば、毎日3つの観点で自分の電話対応をメモにまとめるという方法があります。
- うまく対応できた点
- 改善すべき点
- 翌日の目標
この記録を1ヶ月続けるだけでも、自分の傾向や弱点が明確になり、実際の応対が変わってくることが実感できるはずです。
ある看護師は、毎日業務終了後に「一番印象に残った電話対応」についてメモを残しておくことで、自身の成長を実感しやすくなり、気持ちの切り替えにも役立っていると話しています。
さらに、こうした振り返りをチームで共有すれば、他のスタッフからも意見やアドバイスをもらえ、職場全体の電話対応力が底上げされます。
このように、日々の小さな振り返りの積み重ねが、やがて大きな成長につながり、信頼される医療従事者への道を切り開いてくれるのです。
では最後に、今回の記事の内容をまとめてみましょう。
6. まとめ:電話対応は信頼構築の第一歩
医療現場における電話対応は、単なる事務処理ではなく、患者との信頼関係を築くための大切なコミュニケーション手段です。相手の立場に立った丁寧な対応や、専門用語のわかりやすい言い換え、冷静で誠意のある態度が求められます。
不在時の対応やクレーム時の対応など、さまざまな場面での配慮が、患者に「この医療機関なら安心して任せられる」という印象を与えます。また、ロールプレイやフィードバック、自己振り返りといった取り組みを通じて、電話応対スキルは確実に向上していきます。
電話口での一言が、患者の不安を和らげ、医療機関への信頼感を高めることもあれば、その逆に不安や不信を生むこともあります。だからこそ、ひとつひとつの対応に心を込めて、患者に寄り添う姿勢を忘れずにいたいものです。
「声だけの接点」だからこそ伝わるものがある。医療従事者として、電話対応の力を信頼と安心の架け橋に変えていきましょう。